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ICI療法(陰茎海綿体注射)の歴史

ICI療法について解説します。

院長:山本(医師)監修
1)ICI療法の歴史
2)ICI療法の基礎を学ぼう!
3)心因性EDとICI療法
4)手術後のEDとICI療法
5)ICI療法を用いた行動療法
6)ICI療法の対象者|飲み薬が効かない・使えない方

 

ICI療法(陰茎海綿体注射)の歴史

 

(目次)
1)外科手術中に発見されたICI療法
2)パパベリンの副作用
3)薬液カクテル開発の研究
4)プロスタグランジンと日本が先行した治療開発
5)プロスタグランジン単独使用のデメリット
6)薬液カクテルの実用化
7)日本人向けの薬液カクテル開発
8)まとめ

 

 

(はじめに)

ICI療法(陰茎海綿体注射)は、今まで経口薬(バイアグラ®、レビトラ®、シアリス®)が使えない人、効かない人にも効果を示します。

 

そのメカニズムはとてもシンプルで、口や消化管(胃腸や肝臓)を経ずに直接ペニスに作用するからです。ですから脊髄損傷の方、前立腺癌などの手術で陰部神経を傷つけた方などでもICI療法(陰茎海綿体注射)では必然的に勃起します。

 

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同じ理屈で心因性ED(メンタルが原因のインポテンツ)の方でも勃起が得られます。

 

そして自らの陰茎の強い勃起が刺激となり心因性ED自体が解消した症例もあります。このような陰茎そのものに問題がなければ「すべてのEDに効く」というICI療法は、「ED治療の最後の砦」といえます。

 

この素晴らしい治療法の誕生と開発の歴史を解説します。

 

1)外科手術中に発見されたICI療法

 

ICI療法(陰茎海綿体自己注射)のアイデアは、最も古くは東邦大学医学部泌尿器科学教室で試みられていたようです。しかし一般にはフランス人血管外科医、ビラグ(Ronald Virag)氏が1981年の手術中に偶然発見したといわれています。

 

当時の血管外科の手術では、造影剤を使うときや、急性動脈梗塞の症状緩和の血管拡張剤としてパパベリン(Papaverine)を使っていました。これは内科では鎮痛剤としても利用しており非常に一般的な薬剤でした。

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ビラグ(Ronald Virag)氏も執刀中にパパベリン(Papaverine)を使っており、術中の患者さんのペニスがしばしば勃起するのを目撃していました。つまり、パパベリン(Papaverine)が勃起不全症の患者さんの治療目的に使えると発見したわけです。

 

当時は、ペニスを勃起させる神経伝達物質(一酸化窒素:NO)の存在が知られていませんでした(神経伝達物質としての一酸化窒素は、1998年のノーベル医学生理学賞で脚光をあびます)。

 

だから勃起を直接誘発させられるパパベリン(Papaverine)の発見は非常に画期的な出来事でした。

 

2)パパベリンの副作用

 

しかし残念なことにパパベリン(Papaverine)には困った副作用があることがわかってきました。

海綿体注射での投与では勃起を促す効果が強すぎて、持続勃起症(概ね4時間以上続く勃起)をしばしば引き起こしてしまうのです。

 

持続勃起症は陰茎の血流の流れが止まり、陰茎海綿体組織が破壊されてしまいます。さらに陰茎海綿体の線維化という現象も報告されました。これはEDを逆に悪化させ元に回復しませんから重篤な副作用です。

 

持続勃起症や線維化が生じなくても、1回の投与量がとても多い(60~80mg)のも課題でした。液量が多くなると注射したときの違和感が強くなります。勃起した際の自然な利用感が得られないのです。

 

またパパベリンはpH(液性)が非常に高いため、注射時に強い痛みが伴いました。人体の組織は中性が望ましく、中性からかけ離れたものが体内に入ると痛みを伴います。

 

パパベリンはアルカリ性が強く、薬液が陰茎に入る際に痛みを伴うので、ED患者さんの治療としては利用が難しいこともありました。

 

 

勃起を引き起こさせる薬剤として、パパベリンの発見は非常に意義深いものでしたが、頻発する持続勃起症・海綿体の線維化・投与量・液性の4点から、そのままではとても実用化はできるものではありませんでした。

 

3)薬液カクテル開発の研究

 

ところがイギリスのブランドリー(Brindley)氏が、パパベリン(Papaverine)にフェントラミン(Phentolamine : 商品名 レギチーン)を10mgほど混ぜてみました。2種類の薬液を混ぜる(Bimix method)ことで、パパベリン単剤より勃起を弱めることに成功しました。

 

パパベリン(Papaverine)は、体内に残っている時間が長く、なかなか排出されなかったのです。しかし、フェントラミン(Phentolamine)は排泄時間が短いのです。注入後10~20分ほどで、半分の量が対外に排出されます。

この2種類の薬液を混ぜる(Bimix method)ことで、お互いの欠点が長所となり、持続性勃起症を起こす頻度を大きく減らすことが可能になり安全性が高まりました。

 

このアイデアがきっかけで、世界中で治療薬のカクテル開発が本格化することになりました。つまり理想的な勃起(スピード・硬さ・時間)を実現する薬液の研究が全世界で進みました。

 

4)プロスタグランジンと日本が先行した治療開発

 

1985年にプロスタグランジン(Prostaglandin)という薬剤が登場しました。翌1986年に世界で初めて東邦大学の石井延久教授がプロスタグランジン(Prostaglandin E1)を陰茎海綿体に投与し勃起が得られることを発表しました。

 

プロスタグランジン(Prostaglandin)は、パパベリン(Papaverine)やフェントラミン(Phentolamine)と違って、より末梢血管に作用するという特徴がありました。

 

すなわち局部である陰茎海綿体に対する作用としては非常に理にかなって望ましいのです。

 

そして、最も素晴らしいことはプロスタグランジンは持続勃起症を非常に起こしにくいことです。副作用が少なく今までの欠点を解消できる薬剤として非常に注目されました。石井教授の業績がICI療法を実用化に進めることとなりました。

 

ここまでで、パパベリン(Papaverine)、フェントラミン(Phentolamine)、プロスタグランジン(Prostaglandin)と3種類の薬剤が登場してきました。

 

これら3つの薬剤を上手に調合すれば、患者個人の体質・体格に合わせて硬さや持続時間などをコントロールした理想的な勃起を実現させることができそうです。

 

3剤ですからTrimix method、または薬品名の頭文字をとって3P法とも言います。

 

しかし治療のたびにその都度調合するのは比較的大変という考え方もあり、忙しいED治療に従事する多くの臨床家はプロスタグランジンを単独で使い始めました。

 

実際にアメリカではカバージェクト(Caverject (TM))やエデックス(Edex Ⓡ)という商品が一般に売られていて、カバージェクトもエデックスも中身はプロスタグランジン製剤のひとつアルプロスタジル(Alprostadil)のみで構成されています。

 

これは大量生産される既製品としてはやむをえません。医療安全の問題から決して推奨はできませんが、カバージェクトを個人輸入して活用している人もいるようです。(注:医薬品の個人輸入は危険を伴いますのでご遠慮下さい)

 

日本国内の医療機関で行われているICI療法も本質は同じで、ほとんどの大学病院・クリニックではプロスタグランジン単剤で治療を行っています。プロスタグランジンは副作用は少なくとても安全ですが、欠点もよく知られています。

 

5)プロスタグランジン単独使用のデメリット

 

プロスタグランジン単独使用のデメリットは、まずpH(液性)の問題です。pHが3~4と比較的強い酸性なのです。人体は中性を好みますが、プロスタグランジンは大きく離れているので薬液の注入時に痛みを伴います。

 

微小な針がペニスに入る痛みはほとんど問題にならず、むしろ肝心のお薬が入ってくるときに痛いというのは非常にもどかしいのではないでしょうか?多くの男性は「薬液を改善して痛みがとれないのか?」とお考えになると思います。

 

またプロスタグランジン単独使用では、勃起率が70~75%と完全ではありません。要するに硬さが足りないのです。EDを解消できるなら、より自然な勃起を求めたくなるのは人間の性であり男性の本音です。

 

その点、重大な欠点はありましたがパパベリンは90%以上の勃起率を誇っていました。

 

他には保管上の問題もあります。プロスタグランジン製剤はボトルの中に粉末状で入っていて、これを毎回生理食塩水で溶かして使います。一度溶かしてしまうと冷蔵保存しなければなりません。おおよそ3週間が限度で、早めに使い切る必要がありました。

 

pHの問題、勃起の硬さの問題、勃起時の角度の問題、保管の問題など様々な問題点が知られるにつれ、最先端の関心は様々な薬液の長所だけを取り入れた理想的な薬液を開発する方向に向いていきました。

 

複数の薬液を混合したカクテルは、しばしば相乗効果を示すことがあり1+2が3にならず4や5の効果を出すこともあります。つまりより効率的に最大限の効果を引き出すことができます。

 

6)薬液カクテルの実用化

 

石井延久先生(東邦大学 泌尿器科学教室元教授)の「プロスタグランジンの陰茎海綿体内投与」はICI療法を一気に前進させました。そして世界各国のED治療に携わる臨床家は様々な試行錯誤を重ねました。
この治療法はマウスで実験するわけにはいきませんから、医師みずから自分のペニスに注射して薬液カクテルの効果を確認しながら研究するより他ありません。

 

しかも、ご想像の通りペニスも男性によって十人十色で様々ですから複数の医師で確認していく必要もあります。ICI療法の開発は涙と笑いなくしては語れません。世の中のEDに苦しむ患者さんの男性機能を回復させる激しい情熱だけが研究を支えたと言えましょう。
より望ましい勃起を実現させるため、イタリア人医師のベネット(A.H.Bennett)がアトロピン(Atropine)、ウクライナ出身のオーストリア人医師ヴァイズマン(Jack Vaisman)博士がミルリノン(Milrinone)という薬の使用を試みました。

 

それぞれ特徴的な効果を示しました。さらにクロルプロマジン(Chlorpromazine)やヨヒンビン(Yohimbine)という薬剤を、3P法やQuad-mix methodにアレンジする研究も行われ、膨大な薬液の組み合わせが試行錯誤されました。

 

患者個人の体質に合わせて、ヴァイズマン氏が考案した薬液カクテルの調合とアルゴリズムはヴァイズマン法(Vaisman’s concoction)と呼ばれました。

 

7)日本人向けの薬液カクテル開発

 

しかしヴァイズマン法(Vaisman’s concoction)は、薬液の量や得られる勃起などの点で、必ずしも日本人の体質にあう薬液カクテルではありませんでした。

 

これまでのED治療の研究は、もともと文化的背景から欧米(特に東欧)やオーストラリアが盛んでした。実際ヴァイズマン氏も東欧出身の医師です。

 

アジア圏では長年ED研究は熱心には取り組まれてこず、そのため日本人のED治療は日本人医師によって研究される必要がありました。医学は全人類共通ではありますが、陰茎は人種間で差異もありますから、そのままヴァイズマン法を適応するのは困難だったのです。

 

そこで日本国内でも患者さまひとりひとり様々な症状に合わせて薬液を選択するメカニズムが模索されました。

 

◆ICIクリニックの試み(より、精度の高い勃起を目指して)

ビラグ氏が初めてICI療法としてパパベリンを再発見して以来、30年以上が薬液探しの歴史でもあります。こうした試行錯誤の末に現在のICI療法(陰茎海綿体注射)が完成しています。

 

「ICIクリニック」の薬液カクテルはこれらの開発歴史をふまえ、複数の日本人医師によって、より痛みがなく自然な勃起を実現するための改善を加えたものです。

 

現時点で考えられる最善の薬液カクテルを完成させ、多数の患者様からのフィードバックで微調整を続けています。

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現在ではICIクリニックの薬液カクテルは6種類の薬剤を使用しています。患者さまによって全てを使わないこともあります。ただし当院では、Single method(パパベリンやプロスタグランジンの単独使用)は行っていません。またカバージェクトなどの既製品も取り扱っていません。

 

<まとめ>

◆Single method(パパベリン):現在は使われていません

◆Bimix method(フェントラミン+パパベリン)

◆Trimix method(3P法:フェントラミン+アルプロスタジル+パパベリン)

◆Single method(プロスタグランジン):カバージェクト(TM)、現在日本で広く行われてるプロスタ◆グランジン単剤によるICI療法

◆Quad-mix method (3P法+アトロピン)

 

ICI療法の知名度が低いのはなぜ?

このようにICI療法の発見から30年以上もたち、石井延久先生(東邦大学泌尿器科学元教授)のプロスタグランジンの応用を初めとして日本初の治療法といえるにも関わらず、日本国内での知名度が低いのはなぜでしょう?

 

 

 

これには時代の潮流が関係していると考えられます。

 

欧米人に最適とされたヴァイズマン法の確立は1990年代後半です。ちょうど同じ頃、1998年に「循環器系における神経伝達物質としての一酸化窒素(NO)の発見」という業績に対して、アメリカ人の医学者にノーベル医学生理学賞が授与されました。

 

これは、公害の原因でしかないと長年考えられていた一酸化窒素(NO)という物質が、なんと血管に神経伝達物質として作用しているという大発見です。一酸化窒素は勃起のメカニズムで重大な役割を果たしていることがわかったのです。医学界は沸き立ちました。

 

ペニスの勃起がどのような仕組みになっているのか?実は長年の謎でした。しかし、ノーベル賞というインパクトが今まで日陰に追いやられたED研究に脚光があたった雰囲気がもたらせました。

 

陰茎海綿体注射は海綿体に強制的に血液を流入させる方法ですが、もう少し手前の神経伝達物質の作用レベルでED治療をすることにフォーカスが移りました。

 

そして、1999年に勃起を促す薬剤のバイアグラ®が発売となり、経口薬でEDが直せるというふれこみで世界中で大フィーバーとなりました。逆にICI療法に注目する人は大幅に減ってしまいました。

 

 

現在ICI療法は日本国内では保険適応となっておらず、自己責任で治療を行うことが求められています。また治療費は全額自己負担になってしまいますので、費用的なハードルもあります。

 

海外では一般的な治療として普及しており、ICI療法の発展に日本が果たした役割は大きいにも関わらず、日本国内の知名度が低いままなのはこのような経緯があるからと思われます。

 

ED診療ガイドライン(日本性機能学会)では経口薬が第1選択であり、第2選択としてICI療法が明記されています。商業的に大成功したバイアグラⓇしか知名度がない現状は嘆かわしいばかりか、本来ICI療法によって恩恵を受けられはずの男性にとっては大変不幸なことです。

 

2011年から診断目的に限っては陰茎海綿体注射も保険適応となりました。当院ではICI療法の普及に積極的に取り組んでまいりたいと考えています。

 

また、ED治療の啓発活動に全国的に取り組んでまいります。

 - ICI療法