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外科手術後のED(勃起不全)とICI療法について

ICI療法について解説します。

院長:山本(医師)監修
1)ICI療法の歴史
2)ICI療法の基礎を学ぼう!
3)心因性EDとICI療法
4)手術後のEDとICI療法
5)ICI療法を用いた行動療法
6)ICI療法の対象者|飲み薬が効かない・使えない方

 

外科手術後のED(勃起不全)とICI療法について

(目次)
1)外科手術後のED(勃起不全)
2)外科手術後のED(勃起不全)への対策
3)ICI療法の特徴
4)まとめ

 

はじめに

「ED(勃起不全)、インポテンツ」という言葉を世の男性のほとんどが知っていると思います。

 

そしてその人達の中には「ED(勃起不全)になってしまったらバイアグラ®を使って治せる」とも思っている人も多いと思います。ED(勃起不全)に対する治療薬として一番有名なバイアグラ®ですが、ED(勃起不全)患者の80%に効くと言われています。5人いればそのうち4人には効くんですからとても素晴らしいお薬です。

 

バイアグラ®の1つで80%の人が救われるED(勃起不全)ですが、ここでは残りの20%に焦点を当ててみましょう。日本に推定1800万人いると言われているED(勃起不全)患者のうちの2割、つまり約350万人はバイアグラ®ではED(勃起不全)の治療ができません。

 

それは大きく分けて2つの理由があります。1つはバイアグラ®を処方すると副作用の恐れがあるからです。普段常用しているお薬の中にバイアグラ®の作用を強くしすぎるがある人、バイアグラ®の使用によって他の場所の血管や臓器に障害が出るおそれのある人、特別な持病(網膜色質変性症など)を持っている人などがあたります。

 

そしてもう1つ、脳からの勃起の指令を伝える神経に障害がある人です。これは生まれつき神経に障害が出やすい人もいますし、何かの病気に続発的に障害をきたす人もいます。

 

病気自体から直接的に神経を侵襲されなくても、たとえば癌を外科手術で摘出する際に神経を傷つけてしまってもED(勃起不全)になります。

 

今回のテーマはこの外科手術でED(勃起不全)になってしまうことです。いったいどのような手術でED(勃起不全)になるのでしょう。そしてその治療法とはどんなものがあるのでしょうか。

1)外科手術後のED(勃起不全)

そもそもどのようなメカニズムで勃起は起こるのでしょうか。次のイラストを見てください。これは腰のあたりの神経がどのように張り巡らされているかを表すイラストです。

 

中島2-1

 

腰のあたりから出る神経の中には男性性機能(勃起、射精)を司る神経が含まれます。そのうち勃起をつかさどるのは骨盤内臓神経の1つである陰茎海綿体神経です。男性は性的刺激を外界から受け取ると、脳が性的興奮を覚えます。

 

すると副交感神経という神経がよく働くようになります。陰茎海綿体神経は副交感神経の1つであり、性的興奮を感じるとこの陰茎海綿体神経が働いて陰茎周りの血管に作用し、勃起が起こるのです。

 

続いて、勃起が起こり陰茎にある程度の刺激が与えられると今度は交感神経がよく働くようになります。何らかの原因で陰茎海綿体神経に障害が起こり上手くはたらかなくなると、勃起が起こりにくくなりED(勃起不全)となります。これを器質性ED(勃起不全)と言います。

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中島2

 

ではどのような手術の後にED(勃起不全)の症状が出るのでしょうか。手術に伴い術後のED(勃起不全)が多く報告されている例として、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌が上げられます。それぞれ見てみましょう。一番はじめのイラストを見ると大まかな位置関係が分かりますのでもう一度見てみましょう。

 

中島2-1

 

①前立腺癌
前立腺癌は前立腺という臓器にできる癌です。50歳以上の男性に多く、男性が発症する癌の中では最多で、全国に10万人ほど(全体の9%)の患者さんがいます。欧米ではとても多く診られる病気ですが日本ではそれほど多くありません。しかし最近その数は年々増加しており注意が必要です。
おなかの中では、前立腺は膀胱の周りを取り巻くように存在し、その前立腺の左右のすぐ外側を陰茎海綿体神経が血管と束になって神経血管束というものを形成して通っており、また膀胱の裏を網の目状に神経が広がっています。癌が前立腺内にとどまっており周りへの転移が見られない時に通常手術が行われます。手術では前立腺を摘出し、膀胱と尿道をつなぎ合わせます。このときに多くの場合陰茎海綿体神経が傷つけられます。
②膀胱癌
膀胱癌は膀胱にできる癌で、全国に2万人ほどいると言われています。前立腺癌ほど多くはありませんが、血尿や頻尿、排尿痛といった症状が見られます。膀胱癌のうち筋層浸潤癌と呼ばれる種類の物の時に手術適応となります。

 

このとき膀胱の全摘出が基本方針となり、従って前立腺癌の時と同様、陰茎海綿体神経が障害を受ける場合が多いです。
③直腸癌
直腸癌とは、大腸の肛門に近い部分(直腸)にできる癌のことです。全国で4万人ほどが罹患しています。ED(勃起不全)には直腸は関係ないのでは?と疑問に思うかもしれませんが、位置的に直腸は膀胱や前立腺のすぐ後ろにあるため、直腸にできた癌が膀胱や前立腺に転移しやすいのです。

 

実際、直腸癌の手術後にED(勃起不全)になったという話はそう珍しくありません。転移すれば上記の2つと同じ対応をとり、直腸および転移箇所の摘出となります。

 

このように、これらの骨盤内の癌の手術をするとその過程で陰茎海綿体神経を切除する可能性があり、そのために外科手術後のED(勃起不全)の原因になり得るということです。陰茎海綿体神経を切断するかどうかは癌の箇所、種類、進行具合によります。

 

癌は転移して体中のどこにでも移っていく可能性があるため、手術の一番の目的は癌の完全切除です。

 

ですから癌の切除を陰茎海綿体神経を切ることよりも優先しようという考え方なんですね。このように手術の過程で陰茎海綿体神経を切断してしまうと脳からの性的興奮の指令が陰茎に届かないため勃起不全に陥ります。これが外科手術後のED(勃起不全)というものの正体です。

 

一般的にED(勃起不全)に対する処方薬といえばバイアグラ®が有名ですが、バイアグラ®は次のイラストのようにはたらきます。

中島4 (1)

 

バイアグラ®は勃起を抑えようとする物質のはたらきを邪魔することで勃起「した」状態を持続させる薬です。つまり多少弱くなった勃起する能力を助ける薬です。ですから神経を切断されて勃起する能力自体をほとんど失った器質性ED(勃起不全)にはバイアグラ®は効きにくいのです。

 

2)外科手術後のED(勃起不全)への対策

バイアグラ®が効かないとなれば、前立腺などにできた癌の外科手術を受ければED(勃起不全)になり男性機能の回復が見込めないのというのはしょうがないことなのでしょうか。

 

実際、十数年前まで外科手術後のED(勃起不全)は避けられないものでした。前立腺や膀胱をはじめとする下腹部の臓器に癌ができるとほぼ100%癌摘出と同時に陰茎海綿体神経も切断せざるを得ませんでした。しかしここ最近、手術方法や知見の向上により「たとえ癌になって下腹部の手術をしなければいけなくなっても男性機能を保存したい」という声にできるだけ応えようとする動きがあります。

 

その結果、癌的手術における陰茎海綿体神経温存術(神経を切らずに癌を摘出する手術)の実践が増えてきています。さらに、癌の進行が高度で神経を切断せざるを得なかった場合でも、現在はED(勃起不全)を克服する方法があります。

 

それはICI療法という治療法です。ここではこのICI療法について詳しく見てみましょう。

 

3)ICI療法の特徴

手術で陰茎海綿体神経を切らざるをえなかった。でもまだまだ男性機能を取り戻したい!そんな声に応えるのがICI療法というED(勃起不全)治療法です。

 

このICI療法では、プロスタグランジンE1という物質を針で陰茎に直接注入します。これだけです。直接注入されたプロスタグランジンE1は陰茎周りの筋肉を弛緩させるはたらきがあり、その結果、脳からの指令なしに陰茎の血管を広げ、勃起を導きます。脳からの指令を必要としないので、神経が切れて脳からの指令が届きにくくなっている器質性ED(勃起不全)の患者さんでも勃起することが可能となるのです。

 

 

ただこのICI療法は欧米などでは広く使われていますが、日本では余り普及していません。以下にICI療法のメリットとデメリットをまとめます。
メリット
・バイアグラの効かないED(勃起不全)患者に効果がある
・副作用が少ない
・注射だけなので慣れれば簡単である
デメリット
・値段が高い(保険適応外)
・自分で注射するのに恐怖感がある。
欧米などではICI療法の知名度は高いですが、日本では保険適応外でかつ治療を実際にしてくれる病院の数が少ないこともありなかなか治療として手軽にできるものであるとは言いにくいというのが現状です。

 

4)まとめ

今回は内容が盛りだくさんでしたね。バイアグラ®が効かないED(勃起不全)があること、外科手術後にED(勃起不全)になること、ICI療法という治療法があることなど、知らないことが多かったと思います。そもそもED(勃起不全)自体の話題を出すことを恥ずかしいと感じる方も多く、そのためにED(勃起不全)に対する知識が少ないのではないでしょうか。

 

今や成人男性の3人に1人はED(勃起不全)を感じているというデータもあります。性生活はパートナーとの大事なコミュニケーションの一環ですし、手術してなったものだからしょうがないとあきらめるものでもありません。知識を身につけて、正しい対応をとることでQOLを高めることができます。

 

あれ?と思ったら恥ずかしがらずに病院へ行ったり、本やインターネットで調べて知識を得るその第一歩を踏み出すことがなによりも重要なことのように感じます。

 

 - ICI療法