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心因性EDに関して(精神医学的観点からのまとめ)

心因性(機能性)EDについて解説します

院長:山本(医師)監修

1)心因性EDとは?
2)心因性EDの精神医学的観点
3)心因性EDの原因とその治療法
4)心因性EDに対する行動療法

 

心因性EDに関して(精神医学的観点からのまとめ)

 

(目次)
1)心因性EDに至るまで

2)心因性EDを引き起こす「不安の病」を治療する際のアプローチ
3)心因性EDにおけるICI療法の位置づけ

 

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1)心因性EDに至るまで

 

どのようなことがきっかけで、日常生活上大きな支障となるEDに至るかは医学的には推測の域を出ないことが今の医学レベルの限界です。しかし、以下の様な状況が想定されます。
性行為活動中に自分自身のペニスに対して不安を抱き、性行為時に極度の緊張をもよおし、通常の興奮状態による神経物質の放出が行われず、正常の勃起を誘発できないために心因性のEDに至ると想像されます。

 

通常とは異なる精神状態に陥り、性的興奮が高まらない状況でしょう。その際パートナーもいる状況で、「起たないと恥ずかしい」「こんなはずではない」などと恥ずかしさや苛立ちや焦りが出てくることにより、さらに性的興奮が減少し、勃起が出来ない状況となります。もちろん次に性行為を行った際には、勃起が誘発される事の方が多くみられます。

 

しかし前回の失敗体験があるが故に性行為前から極度の緊張状態を招き、以後性行為時には勃起できない状況が繰り返されていきます。失敗体験を繰り返していくうちに自信を喪失し、悪循環に陥り、性交渉を行えなくなるのが心因性EDに至る要因と想像されます。自慰行為を行う際はしっかりと勃起が誘発され、射精も出来るのに、いざパートナーがいると勃起に至らないのが心因性EDの典型例です。
このように心因性EDの背景には「不安の病」が潜んでいると想定されます。

 

バイアグラの薬理学的作用はPDEに働きかけ、正常の性的興奮が生じた際に、ペニスに勃起を誘発させます。しかし性交渉時に極度の不安がある際にはバイアグラの使用によってもそもそも性的興奮を誘発できなければ勃起に至る事は出来ません。これが心因性EDでもバイアグラが奏功しない理由の根拠の一つになると考えられます。

 

2)心因性EDを引き起こす「不安の病」を治療する際のアプローチ

 

精神医学的観点からこの「不安の病」を治療する際のアプローチの仕方を考えてみましょう。精神医学的には、大きく3つの病気に分けられます。

 

幻覚妄想を主体とする統合失調症。抑うつ気分や意欲の低下を主体とする気分障害、いわゆる「うつ病」。そしてパニック障害に代表される不安障害です。
不安障害に対しての治療的アプローチはどのように行っているのでしょうか。大きく、薬物療法精神療法に分けられます。

 

◆薬物療法
薬物療法に関して概観しますと、脳のベンゾジアゼピン受容体に作用する抗不安薬やうつ病にも使われるセロトニン再取り込み阻害薬(いわゆるSSRI)などがあります。
抗不安薬は脳内のGABAの作用を高め、心地よい安心感をもたらします。これにより極度の不安を取り除く作用があり、また即効性もあります。
SSRIに関しては脳内のセロトニンの作用を高め、ゆっくりと抗不安作用を発揮すると考えられています。精神科では一般的には抗うつ薬として使用されることが多いです。またこの抗不安作用により、焦燥感の強いうつ病患者さんにも抗うつ効果をもたらしているとも考えられます。

 

しかし、成人でのSSRIの使用により、米国で臨床上大きく問題となったのは、SSRI服用者の1割前後にEDの患者さんが生じたという問題でした。アメリカでは精神科治療においてパートナーとの性活動は重要な位置づけにある様で、EDが生じるために服薬を中断する患者さんが多く出たとのことです。日本の精神科領域ではこれらの性活動に関して面接で相談を受けることが一般的ではなく、あまり問題化していないようです。SSRIというセロトニンに作用する薬は精神面には効果的かもしれませんが、ことEDに関してはマイナス要素が強くなってしまいます。

 

余談ですが、同じようにセロトニンに働く抗うつ薬の中にトラゾドン(Trazodone)という薬剤があります。数十種類あるセロトニン受容体の別のところに作用するためか、たまに見られる副作用として持続勃起症があります。同じ抗うつ薬でも違う副作用を起こすという点が、医学的には神秘的でもあります。
また追記ですが、音楽奏者などに従来βブロッカーという脈を抑える薬が演奏前に使用されたりもします。脈をゆっくりさせる作用と併せて、手の震えを抑え、スムーズに演奏が出来る様になるようです。しかしこのβブロッカーはパニック障害の患者さんにはまったく効果がないようで、不安障害の方にβブロッカーが使用されることは一般的ではありません。以上、代表的な3種類の抗不安薬を取り上げました。

 

これらの薬剤を不安の元を断つ目的で、心因性EDの患者さんに使用するというのは一つの方法として考えられます。しかし薬事法や医学的適応上これらの薬剤を使用する事は基本的は認められていないと考えられます。もちろん、精神科医の診断によって不安障害と診断された方が、適正な範囲でベンゾジアゼピン系抗不安薬、SSRIの処方を受けたり、うつ病の診断を受けた方がSSRIの処方を受けることは、許容範囲といえるでしょう。

 

ベンゾジアゼピン系抗不安薬によってEDが悪化するという報告はないようですし、SSRIの副作用でEDを引き起こす方がいても、人によってはEDをきたさず、不安障害を上手に改善してくれる薬剤になるかもしれません。また循環器内科医などに高度の頻脈で治療が必要と判断されれば、βブロッカーの使用も対象になるかもしれません。
しかし薬剤の使用に関しては必ず副作用が一定の確率ありますので、安易に使用する事は望ましくありません。上記の様な状況に思い当たる方は一度、精神科や循環器科などに相談することも選択肢として考えられるかと思います。結局のところ、精神科薬剤がEDを改善させるという報告は、現状では見当たりません。

 

◆精神療法

次は精神療法の観点から心因性EDを治療するケースを検討します。
まず面接によるカウンセリングが考えられます。心因性EDに至った経緯を治療者と深めていき、全体像を捉えていく作業です。その中でパートナーとの心理的なわだかまりが解消され、お互い心地よい心理状態で性行為に至りEDが解決する事も期待できるかと思います。日本では米国と違いカウンセリングによるEDの相談は一般的ではありません。熟練した治療者とめぐり逢う機会も大変難しいと思われます。またカウンセリング自体は保険適応でなく自費診療になり、費用もかかります。またカウンセリングは時間も要し、プライベートな内容を打ち明ける必要があるため日本人のメンタリティとしては非常に馴染みにくいのが現実かと思います。
現在精神科医の中で、不安障害の患者に対して一般的に有用とされている治療法として認知行動療法(CBT)というものがあります。パニック発作や強迫性障害などの治療に利用されます。パッケージ化した手法であり、患者さんと治療者で不安発作が起きる要因を細分化していき、理解を深め、まず認知を高めます。その後病態を理解し、ある程度気持ちの余力を持った上で、少しずつ嫌な行動を治療者と行っていき、自信を深めていくという治療法です。

 

病気に対しての理解を深めて認知を高めてもなかなか治療が上手くいかないケースも多々みられます。そのため行動療法が非常に重要という精神科医も多く見られます。不潔恐怖の方だと、患者が不潔だと思っている行為を抵抗の少ない行為から治療者と行っていき、少しずつ成功体験を重ねていきます。本人の嫌がることを無理やりさせているという点では荒療治ではありますが、結果的に成功体験を積み重ねることで自信を獲得し、よりよい生活を取り戻していく患者さんも多く見られます。精神療法は楽に治るというものではなく、辛いことを治療者と一緒に行い、その後に自信を獲得していくということです。

 

3)心因性EDの方に対するICI療法の位置づけ

心因性EDの方にとってのICI療法は、精神科的には行動療法として位置づけられるかもしれません。
まず治療者と同時に勃起を促すというのは倫理的にもまず不可能でしょう。
また自慰行為中は問題なくても、性交渉中が問題となります。パートナーの方の工夫により不安感がなくなり、性的興奮を上手に引き起こし、EDが治るのが最も理想的かと思います。しかしこれらの工夫をしてもEDが治らない際はパートナーに多くを期待をするのもパートナーにも負担になりますし、なかなか打つ手がないかもしれません。

流れ1
ICI療法は精神的興奮に依存せずに半ば強制的に勃起を促すのが一つの特徴です。
性交渉においてICI療法を活用する事で、実際の性行為中に性交渉を問題なく行えれば大きな自信となります。行動療法と同じ様に、治療者ではなく治療薬を上手く用いる事で成功体験を積み重ねる一つのきっかけとして用いるわけです。最初は薬のおかげで勃起が出来たと薬に「依存」してしまうかもしれません。しかしそんな必要はありません。もともと心因性EDは自ら勃起する能力がある訳ですから、複数回の成功体験を積み重ね、不安を取り除き、自信を取り戻すことにより、将来的にはICI治療薬がなくとも性交渉が行えるようになる事が期待されるわけです。
現時点ではICI療法による陰茎の長期的障害の報告はありません。
心因性EDの方も色々な治療法を試しても効果がなかった際は、「行動療法の手段としてICI療法を活用する」という手段も一つの選択肢と検討して頂ければと思います。また最終的にはICI療法を必要とせずに、以前の様な性交渉を行えるように回復することが、我々治療者としての喜びの一つです。

 - ED・心因性, 医療従事者向け