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糖尿病によるED(勃起不全)とICI療法について

ICIクリニック:院長山本(医師)監修
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こちらでは・糖尿病によるED(勃起不全)とICI療法について、解説します。糖尿病がEDを引き起こす仕組みと、それに対するICI療法の効果に触れています。

(目次)
1)糖尿病について
2)糖尿病になると…
3)糖尿病とEDの関係
4)糖尿病によるEDにバイアグラは危険
5)糖尿病によるEDとICI療法について

 

はじめに

EDの原因にはさまざまなものがありますが、そのひとつに糖尿病によるものがあります。一見すると糖尿病とEDには相関がないように思われるかもしれません。しかし、糖尿病罹患患者にEDが併発することは、臨床的な症例として多く報告されています。今回は、糖尿病とEDの関係、そしてその場合に有効なICI療法について解説していきたいと思います。

 

1)糖尿病について

グルコース貯蔵までの生理的な過程
はじめに、糖尿病について触れておきます。糖尿病になるとその名前の通り、尿中に異常に多くの糖分が排出されることになります。尿中に多くの糖分が排出されると何がよくないのでしょうか。我々の体は、食べ物を摂取することにより様々な栄養を体内に取り入れています。そのうちの栄養のひとつとして糖質があります。この糖質は、単糖類に分類される物質が多数結合してできたものになります。

 

糖質の例には、米、パンなどの炭水化物があります。単糖類に分類されるものとしては、グルコース、フルクトースなどがあります。みなさんに馴染み深い物質名で言えば、ブドウ糖です。ブドウ糖がグルコースになります。このブドウ糖という物質ですが、最近では薬局などでも売られていますよね。それでは、なぜわざわざブドウ糖が商品化される必要があったのでしょうか。パンや白ご飯を食べれば良いのではないでしょうか。実は、ブドウ糖を食べることは、パンや白ご飯を摂取するよりも効率性という点で有益なのです。パンや白ご飯の場合、グルコースまで分解されるまでに時間がかかってしまします。最終的には、グルコースに分解されて小腸の絨毛から毛細血管内に吸収されるのですが、摂取してから吸収されるまでにタイムラグが生じます。一方、ブドウ糖を摂取すれば分解される必要がないので、より迅速に毛細血管内に吸収されるのです。したがって、ブドウ糖を摂取することはより効率的なのですね。
さて、ブドウ糖の例を用いて食べ物が分解される過程を説明させていただきました。その後小腸から毛細血管内に入ったグルコースは、その後門脈を通り肝臓や、筋組織、脂肪組織、膵臓などへと達します。グルコースが膵臓へと達すると膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。このインスリンの作用によって、肝臓ではグルコースがグリコーゲンとして貯蔵され、筋組織や脂肪組織にもグルコースは貯蔵されます。人は、常に食事をしているわけではないので常にグルコースを摂取することはできません。これら貯蔵されたグルコースは、食べ物を摂取していない時に使用されます。食後約4時間から24時間の間に取り出されて栄養源として使用されます。(なお、この時同時に糖新生とよばれる現象も体内で起こっています。糖新生とは脂質やタンパク質といった糖質以外の物質から糖質を合成することを言います。)

 

2)糖尿病になると…

糖尿病になると下線の部分の過程に異常がおこります。詳しくは後に述べますが、インスリンというホルモンの作用が弱まることによって、グルコースを肝臓や脂肪組織、筋組織に貯蔵することができなくなります。そのため、食後分解されて生じたグルコースは、体内で貯蔵されることなく全て尿中に排泄されてしまうのです。これが、「糖尿病」と言われる所以です。また、糖尿病の罹患患者の特徴として、高血糖が挙げられます。インスリンには食後の高くなった血糖値を下げる役割があります。このことは、インスリンの作用によってグルコースが体内の各組織に貯蔵された結果としてもたらされます。しかし、インスリンというホルモンの作用が弱まると、グルコースが体内の各組織に貯蔵されず、血液中に留まります。この結果として高血糖がもたらされるのです。
「インスリンの作用が弱まる」と曖昧に表現したのは、詳しく見るとこのメカニズムには2種類あるからです。一つ目が膵臓からインスリンが分泌されない、または分泌されにくいという病態です。この病態を1型糖尿病と呼びます。これは先天的にインスリンを生成する遺伝子が欠損しているために起こります。続いて、二つ目ですが、インスリンは分泌されるのですがこれらのホルモンを受容するためのレセプターに異常がある病態です。この病態を2型糖尿病と呼びます。ホルモンは分泌されるだけでは、体内に効果をもたらすことはできません。各器官にあるレセプターとよばれる受容体に結合することで効果をもたらします。

 

よく、「ホルモンが鍵、レセプターが鍵穴で両者は鍵と鍵穴の関係」という喩えをされます。鍵も鍵穴もどちらかだけでは、扉は開きませんよね。それと同じで、両者が正常に機能することでホルモンは体内に効果をもたらすことができるのです。しかしながら、2型糖尿病の場合、体内で生成されたインスリン抵抗性の物質がレセプターに結合しているためインスリンがレセプターに結合できなくなります。結果として、インスリンの作用が弱まります。さらに、ここから続きがあって、体内では標的器官でホルモンの効果がもたらされなければ、体は「ホルモンの分泌量が少なかった」と認識しさらにホルモンを分泌しようとします。これは負のフィードバック機構と呼ばれます。したがって、2型糖尿病患者の体内ではインスリンが過剰分泌されます。この結果インスリンを分泌する細胞(膵臓のランゲルハンス島のβ細胞)が疲弊して、インスリンの分泌能が低下してしまうのです。

 

3)糖尿病とEDの関係

糖尿病になると、高血糖の状態が続きます。高血糖の状態が続くと何がいけないのでしょうか。結論から申しますと、血管と神経がボロボロになるのです。そのため、糖尿病になると血管障害、神経障害が起こります。勃起のメカニズムには、血液の流れと神経の働きが強く関係しています。そのため、糖尿病になると合併症としてEDが起こるのです。
勃起すると通常であれば陰茎は硬くなります。これは、陰茎に出入りする血液の関係でおこります。
下の図を見てください。性的な刺激を受けますと、緑色で囲まれた陰茎深動脈の血管口径が大きくなります。それと同時に大量の血液が陰茎深動脈へと流れ込みます。陰茎深動脈へと流れた血液は、黒色で囲まれた陰茎海綿体へも流れ込みます。陰茎海綿体はスポンジ状の組織なので、血液が流入した陰茎海綿体は、ちょうど水を含んだスポンジのように膨らんでいきます。勃起していない時には、深陰茎背静脈から血液が流出していきます。しかし、陰茎海綿体が膨らむことにより、深陰茎背静脈はつぶれるようになります。その結果、流出する血液量が減少し陰茎海綿体にはさらに多くの血液が貯留し、硬くなっていきます。これが勃起のメカニズムです。

 

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血液の流れで陰茎は硬くなりますが、これには神経の働きが大きく関わっています。まずは性的な興奮が受容されると、大脳の性中枢から脊髄を通り、腰髄、仙髄の勃起中枢へと刺激が伝わります。ここから、陰茎へと向かう神経へと刺激が伝わります。陰茎における神経の終末や陰茎深動脈の血管内皮細胞からNO(一酸化窒素)が分泌されます。このNOはcGMPを産生します。cGMPが最終的には陰茎深動脈の平滑筋を弛緩させ、血管口径を大きくします。

 

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しかしながら、糖尿病になると血流障害や神経障害が起こるため、上で説明した勃起のメカニズムがうまく機能しなくなるのです。
NIH(National Institute of health;アメリカ国立衛生研究所)によると、糖尿病を患っている場合、患っていない場合よりも2〜3倍でEDを発症しやすくなるそうです。また、糖尿病患者の場合、10年から15年ほど早くEDを発症することが推測されるそうです。45歳、またはそれ以下の年齢の男性の場合、逆にEDが糖尿病の早期発見の際の要因にもなりうるということです。

 

4)糖尿病によるEDにバイアグラは危険

EDの第一選択薬としては、現在バイアグラが最も主流です。しかし、糖尿病によるEDの場合にはバイアグラの服用は危険です。その理由は、バイアグラの服用によって糖尿病による他の合併症までも悪化させることがあるからです。バイアグラは別名PDE5阻害剤と呼ばれています。PDE5とは、cGMPを分解させる酵素です。このPDE5という酵素を抑制することでcGMPの分解を抑制します。これによって陰茎深動脈の平滑筋が弛緩して勃起が起こることは、上で説明しました。しかしながら、cGMPの分解が抑制されると、全身の動脈における平滑筋も弛緩することになります。血管が拡張すると血流量が増えるため、もともと血管壁が脆弱化している動脈硬化や血栓の存在する血管がある場合には、バイアグラを服用することは危険であることがわかると思います。したがって、糖尿病患者にバイアグラを服用することは適切だとは言えません。

 

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5)糖尿病によるEDとICI療法について

糖尿病によるEDには、バイアグラが服用できないためその他の治療法が有効になります。一つの方法として、ICI療法があります。ICI療法は陰茎海綿体に直接薬剤を注射することによってEDの症状を改善させる治療法になります。薬剤はプロスタグランジンを中心に様々な薬剤を混合して用いられます。糖尿病によるEDを患う患者にとって、バイアグラを服用することはあまり適切ではありません。しかし、ICI療法ならば循環系に障害があったとしても、血管の平滑筋を弛緩させる薬剤は用いることはないのでより安全であると言えます。国内ではまだメジャーではありませんが、ED治療にもさまざまな選択肢があることを糖尿病の患者だけでなく多くの人にも知ってもらいたいと思います。

 

参考文献
“Diabetes and Sexual and Urologic Problems” https://www.niddk.nih.gov/health-information/diabetes/preventing-diabetes-problems/sexual-urologic-problems (2016.12.15)

 - 糖尿病・ED